コラム
Column
在籍出向
2024年11月25日(月)
人事部門のなかには、社内の人事異動は担当した経験があるものの、会社をまたぐ「出向」を担当した経験がある方はそれほど多くはないのではないでしょうか。
そのため、出向する人材の人選や必要な手続きに戸惑うことが多いという声も頻繁に聞かれます。
社員側も出向と「左遷」の違いを混同している場合もあるため、きちんと根拠がある人選や本人が納得する説明をする必要があるでしょう。
今回の記事では、出向についての基本的な説明や、昨今はどのような目的で出向を行い、どのように人選するかをお伝えします。
出向とは、出向元企業のグループ会社や系列子会社をはじめとした別企業(出向先)に異動することです。
後述しますが、出向そのものに是非はなく、企業によってさまざまな目的で出向という仕組みを活用しています。
なお左遷とは、一般的にポジションの降格をともなう人事異動や、本社から格下の地方支社への異動などの場合に使用されます。
出向と左遷を混同している方も多いようですが、出向の目的のなかには前向きなものも多くあります。ただし会社によっては階層構造が異なるため、地位の降格や昇格が起こる出向も存在します。
いずれにしても、降格を前提とする左遷と出向は異なる目的のものです。
また、出向には「在籍出向(在籍型出向) 」と「転籍出向」の2種類があり、それぞれによって意味が異なります。
以下でそれぞれについて詳しく解説していきます。
在籍出向とは、現在の会社に籍を置きながら、関連別企業に就業する出向形式のことです。
世の中の企業で一般的に行われている出向の多くは、在籍出向が多いでしょう。
具体的には、現職企業ー他社間で結ばれる出向契約に基づき、他社に就業しその企業の一員として業務を行います。雇用契約は在籍元の会社と結びつつも、出向先とも結ぶこととなります。
在籍出向は出向先で一定期間働いたあと、出向元企業へ復帰すること(帰任)が前提となっているケースがほとんどです。
前述したように、一般的な在籍出向は「自社と関連する企業へ異動する形式」が中心です。ただし昨今では、「関連がない別企業へ人材を行き来させる形式」の在籍出向も注目されています。
グループ会社や関連企業であれば対象となる出向先企業はおのずと限られます。一方で「在籍出向」の仕組みを活用すれば、まったくの別企業への出向も可能です。逆に別企業から出向を受け入れることもできます。
より刺激がある環境へと出向させたい場合や、出向で身につけてほしい技術やスキルが明確な場合は、在籍出向の活用がおすすめです。
ボルテックスが提供する在型籍出向サービス「Vターンシップ」は、全国約4.7万社のネットワークから貴社のご要望に沿った最適な出向先・受入先をご提案します。
人材業界出身の経験豊富なキャリアアドバイザーが、送出企業様、受入企業様双方に情報を共有しながらサポートするため、出向期間終了まで安心してサービスをご利用いただけます。
出向期間中、これらのサポート対応は追加料金なくご利用頂けるのも魅力のひとつです。
転籍出向とは、出向元企業と社員の間で結ばれていた労働契約を解き、出向先企業と新たに労働契約を結ぶ出向形式のことです。
在籍出向の場合は、出向元企業との雇用関係は継続していますが、転籍出向では出向元との雇用関係は消失し、出向先との雇用関係のみになります。
このように転籍出向は、完全に出向先企業へと籍が移るため、出向元企業には戻らないことが前提となるケースが多いでしょう。
あらためて出向はどのような場合に行われるのでしょうか。
ここからは昨今の出向の潮流も踏まえて、出向を行う目的を整理していきます。
出向を社員の能力開発やキャリア形成など、人材育成 の目的で行うこともあります。
今現在勤務している企業とは異なる環境へ出向させることで、新しい経験や新しい技術の獲得が期待できます。
出向社員が帰任した際にも、新しい考え方や技術を活用することによって、出向元企業にもメリットが得られるでしょう。
企業によっては、経営幹部の育成の一環として「他社での経験」を必要な条件として定めていることもあり、そのため「出向」という仕組みを活用していることもあります。
組織風土の活性化のために、出向により人材交流を起こす目的もあります。
特に規模が大きい企業では、グループ会社も多岐に渡ります。その時々に適した事業運営や、グループ企業間でのシナジー創出のためにも、人材交流が必要となるからです。
外部から新しい人材が来るということは、出向先の職場活性化にもつながる効果もあります。
グループ会社間のみならず、関連会社・子会社、取引先などと仕事上の関係性を深めるために社員を出向させるという場合もありえるでしょう。
出向には、企業の人員数をコントロールすることで、企業としての雇用調整を行う目的もあります。
具体的な例としては、数年前のコロナ禍において、流通業や航空業など業績が悪化した企業が挙げられます。
コロナ禍以前の雇用が自社で用意できなくなった際に、社員の籍は自社で確保しながら、仕事を担ってもらうために他社へ出向するという方法です。
情勢が上向いてきた暁には、自社に戻ってきて活躍してほしいという狙いもありました。
業界によって人材の需給度合いが変わるのは、経済の常でしょう。このように会社をまたいだ出向が雇用の調整弁となることで、社会全体で雇用創出をする目的があります。
人材育成目的で出向をさせる場合は、異なる環境に身を置くことで一段高いレベルの成長が期待できる社員を選びます。
たとえば「自社製品・サービスをより顧客視点で価値を体感してもらいたいため、営業専門の事業会社へ出向させる」や「自社に足らない技術を習得してもらうために、関連研究機関に出向させる」などのケースです。
人材育成目的の場合は、比較的若手社員が選ばれることが多いでしょう。
異なる環境の刺激によって成長スピードが高まりやすいことや、スキルアップの余地があることなどが主な理由です。
人材要件としては、適応能力や対応力が高く、キャリアアップに意欲的で、チャレンジ精神が旺盛な人材が選ばれる傾向にあります。
また昨今は次世代リーダー候補の社員に、幹部育成目的で出向を活用するケースも増えています。
特に大手企業の若手社員であれば、自社で経営の根幹に触れる機会は限られているでしょう。そのようなときに、より規模が小さい系列企業に出向し、経営のノウハウを学んでもらうこともあります。
人材交流目的で出向をさせる場合は、企業間の相乗効果や企業間の技術やノウハウ交換を狙うことが多いため、会社間のハブとしての動きが期待される社員を選びます。
たとえば「出向によって人的ネットワークを作ってもらいたい」や「自社と関係会社の技術交換を行うことで、将来的に新商品を開発してほしい」などのケースです。
人材育成目的の場合は、中堅社員が選ばれることが多いでしょう。
中堅社員は幅広い層になるため、自ら業務を的確に遂行できる20代後半から30代の場合もあれば、経験が豊富で技術力が高いベテラン社員の場合もあります。
人材要件としては、責任感や目的意識が強く、知的好奇心が旺盛で主体性が高い人材が選ばれる傾向にあります。
またベテラン層であれば、関連子会社でスタートアップをする際に、立ち上げの事業支援を目的とした出向も行われることがあります。
雇用調整目的で出向をさせる場合は、担当業務が縮小もしくは消失した社員で、社員側も企業側も継続雇用を希望している対象者を選びます。
たとえば「現状の接客業のノウハウが他社で活かせる」や「他社で急募している職種にすぐに対応できる」などのケースです。
雇用調整目的の場合は、選ばれる社員は年齢もポジションも実にさまざまでしょう。
ただし一時的な雇用調整としても、自社の看板を背負って出向することになるため、人材要件としては、環境変化に前向きで、協調性が高く奉仕志向が強い人材が選ばれる傾向にあります。
また雇用調整のケースとしては、自社のポジション不足により、シニア社員を他社に出向させるケースもあります。
ややネガティブな印象もあるかもしれませんが、自社では効力感が得られにくかったシニア社員が、他社で活躍することで成長意欲を取り戻す効果も期待できるでしょう。
最後に、社員を出向させるにあたっての注意点を紹介します。
出向を必ずしもポジティブにとらえる社員ばかりではないので、手続きを適切に踏まないと、ややもすると労使トラブルにも発展しかねません。
前提として、社員に出向を命じるためには、企業が出向命令権を持っていなければなりません。
出向命令権が認められるためには、以下の2つの条件を満たしている必要があります。
ひとつ目として、企業と社員で入社時に交わす雇用契約書や就業規則などに出向命令権について記載されており、それに社員が同意をしていることです。
企業と社員の間で雇用契約が結ばれている場合、社員は規則に従う必要があるため、出向命令に従わなければならなくなります。
出向した社員が出向先の労働条件や待遇などによって著しい不利益を被る場合には、出向命令権は認められないため、注意してください。
出向命令が、思想信条を理由とする出向命令(労働基準法3条)または、不当労働行為(労働組合法7条)に該当する場合、その命令は無効となります。
出向命令権が権利の濫用にならないことについても注意しましょう。
出向命令が権利の濫用に該当するかどうかは、労働契約法14条によって判断されます。
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
参考:労働契約法 |
今回は知っているようで知らない出向の仕組みや人選のポイントについてお伝えしました。
かつては出向自体は人員調整として活用されるケースが大半でしたが、昨今は人材育成や人材交流など前向きな理由で戦略的に活用できる仕組みへと変化しつつあります。
出向する社員にとっても、終身雇用制度のもと一社で定年を迎えるだけでなく、出向は新たなキャリアプランを考える転機となる可能性があるでしょう。
実際にボルテックスの提供する在籍型出向サービス「Vターンシップ」を利用した企業様では、
「50代の社員に成長を促すことは難しいのではないかと思ったが、出向終了後の変化が大きく驚いている」
「出向者がこれまでの経験からの情報提供や提案を行い、チームメンバーがそれらのノウハウを学ぶことが出来た」
といった効果を実感する声を多数頂いています。
出向者の実際の声はこちらからご覧いただくことも可能です。
社員の出向を検討されている場合はぜひボルテックスにご相談ください。