コラム
Column
在籍出向
2024年05月24日(金)
2010年代から、ビジネスシーンは「VUCA」という言葉が使われ、変化が激しく先が見通しにくい時代が続いています。
こうした変化の波を企業として乗り越えていくために、社員に対して「越境学習」という考え方が注目を浴びています。
ただし言葉だけは知っていても、社員育成に活用するには、具体的に何をどうすることなのか分からないという方も多いのではないでしょうか。
今回は、所属組織や企業の「垣根」を越えて、新しい学びを得る越境学習について取り上げます。越境学習が注目される背景やメリットから、具体的な手段まで紹介します。
通常の社員育成だけでは、変化の波を乗り越えられないという危機意識をお持ちの方は、ぜひご一読ください。
越境学習とは所属部署や勤務先を離れて、これまでと異なる外部環境で仕事を行うことによって、広い視野や新たな視点を得る教育手法です。
越境学習の最大の目的は、慣れ親しんだ場所からあえて離れることで、異なる文化・価値観に触れることです。考え方が異なる人たちと働くことで、多様な視点を養える効果があるでしょう。
上記のたとえはやや極端な表現方法かもしれませんが、これまでの自分のものの見方や、慣れ親しんだ仕事スタイルを一度捨て去ることで、環境変化の波にしなやかに対応できる社員が増える期待があります。
越境学習が広がったのは「VUCAの時代」という大きな波の影響はありますが、特に日本企業で越境学習が注目されるようになった背景をお伝えします。
越境学習という言葉が急速に広がったのは、経済産業省が越境学習に着目しているという背景が挙げられます。
変化が激しいVUCAの時代に対応するためには、自ら課題を発見し、解決する能力が求められます。
そのため経済産業省では、日本の企業人の変化対応力を高める教育方法である越境学習を推奨しているのです。
たとえば2018年より経済産業省は「未来の教室」プロジェクトなどを立ち上げ、さまざまな業種の企業人が集まり、社会課題に触れるような場を提供しています。
このような政府の動きを受けて、企業でも自社で越境学習を取り入れる動きが加速していきました。
越境学習は、シニア人材の活性化にも効果が高いといわれています。
現在は少子高齢化の影響で、若手人材の採用が難しくなり、社員の高齢化が進んでいる企業も増えています。このような状況で、シニア層の社員にさらなる活躍を促すことは企業として急務でしょう。
ただ、シニア人材は過去の経験が豊富にある分、「自分が分かる範囲だけでしか働きたくない」「これ以上、成長は望まない」という人も少なくはありません。
そこで、越境学習により外部の世界に触れ刺激を受けることで、シニア層がさらなる成長に意欲を出すことが期待されているのです。
主体的に仕事の意味や価値を見出し、キャリア開発を行うキャリア自律にも、越境学習は効果が期待できるでしょう。
現在の日本では右肩上がりの経済成長が期待できなくなり、社員の終身雇用を維持できない企業も増えてきています。
かつては、社内の人材育成は階層別研修に代表されるような、比較的ベーシックな育成だけを施せば良かったかもしれません。しかし従来型の階層別教育だけでは、キャリア自律になかなか寄与しにくい現状もありました。
そこで、社内の人材育成施策以外で社員のキャリア自律が促進できる取り組みとして、越境学習に注目が集まった背景があります。
すでに越境学習を取り入れている企業から、よく聞かれる実際のメリットを紹介します。
他者との交流を通じて人材開発ができる越境学習は、社員の自己理解や成長に大きく寄与します。
人間は、他者の視点を通じて自己の強み・弱みを知るものです。
自己理解を促す心理学モデルのひとつとして「ジョハリの窓(Johari Window)」というものがあります。「自分から見た自分」と「他人から見た自分」の情報を切りわけて分析することで、自己理解を行う方法です。
越境学習では、日頃一緒に仕事をしていない「他人」の目を通すことで、より立体的に社員の自己理解を促進できます。
さらに、越境学習では得たものをなんらかの成果としてアウトプットすることで、さらに社員の成長効果が高まります。
越境学習中は多くの場合、通常の業務を免除されているケースが多いでしょう。
単に学んで戻ってくるだけではなく、越境学習で得たものは何らかアウトプットし、業務や会社への貢献を示さなくてはなりません。
単純な「お勉強」ではなく、アウトプットをすることで、社員の業務復帰後の成長もより期待できるようになるでしょう。
越境学習で社員が新たな視点を獲得でき、イノベーションが社内で起きやすくなる点もメリットです。
社外のプロジェクトに参加した場合、社内でのルールや仕事のスタイルが、実は当たり前ではないことに気付くことができます。
参加社員は外部の多様な発想や価値観に触れることで、刺激を受けるだけでなく、自社へのエンゲージメントを確認するきっかけにもなるでしょう。
企業としては、社員に新たな視点を自社へ持ち帰ってもらうことで、組織の風土改革や新規事業の創出につながることが期待できます。
次世代を切り拓く事業責任者や経営幹部に該当する「次世代リーダー」の育成に効果が高いことも、越境学習のメリットです。
今後リーダーのポジションを担わせたい人には、新規事業の立ち上げや大きなプロジェクトへの抜擢など、いくつかの「修羅場体験」のようなものを積ませる必要があります。
ただ、社内で積める経験やポジションは限られているため、育成に有意義な場を与えられないケースも多いでしょう。
次世代リーダー候補者に社外のプロジェクトへ参加させることで、社内では得られない貴重な経験を積ませることが可能です。
このようなリーダー候補者がさらにもう一伸びする経験は、越境学習ならではの利点といえるでしょう。
越境学習は外に出る必要があるため、企業として越境学習を実施するなら、社外の手段を知る必要があります。
本章では、越境学習の代表的な手段を5つ紹介します。
越境学習を行う方法として、出向という手段があります。
しかし通常の出向はグループ企業など、あまり風土が変わらない場合が多いうえに、所属が変わるなどいくつかの煩雑な手続きも発生します。
そこで注目されているのが在籍出向(または在籍型出向)という手段です。
なかには「会社間留学」という形で、出向元と出向先の企業ニーズをマッチングして在籍出向を実現するサービスも存在します。
在籍出向であれば、自社に籍を残したまま、自社とはまったく異なる環境の他社で経験を積むことができます。
異なる環境に身をおいて刺激を受けられるうえに、受入企業からも歓迎されるため、効力感も得られやすいでしょう。
実際に、ボルテックスの提供する在籍型出向サービス「Vターンシップ」を利用した社員の方からは、
「受け入れ先のポジションは部門を統括する立場で、今までより幅広い業務のマネジメントを経験し、出向しなければ得られなかった様々な気づきを得た」
「出向先での仕事を通じて、自身の仕事に対する考え方が変わった」
といった効果を実感する声を多数いただいています。
出向者の実際の声はこちらからご覧いただくことも可能です。
【現代版武者修行】社員が在籍したまま他業種を経験できる”Vターンシップ”
プロボノとは、自分の専門分野や強みを生かして、地域・社会への貢献活動に取り組む活動です。
ラテン語の「Pro bono publico(公共善のために)」が語源と言われています。
数日から数カ月かけて、地方自治体やNPOの一員となり、各種の支援業務を行うことが一般的です。
具体的にプロボノでは、地域振興型プロジェクトの運営や、学校をはじめとした教育団体との交流イベントを企画・開催します。
プロボノ活動に参加することで、人の役に立つ喜びを知り、自己肯定感を高められるのが特徴です。
異業種勉強会とは、異なる業界の人材が集まり、さまざまなテーマに沿ったワークショップや交流会を行うことをいいます。
たとえば、「SDGs」などのテーマに沿って討論する、新規ビジネスの企画をするなどが代表例です。経営者同士やマネジメント層同士など参会者層も勉強会によってさまざまです。
他社文化や考え方に触れることで固定観念をなくし、新たな視点を養えるのが異業種勉強会の魅力です。
また、多種多様な業界やバックボーンを持つ人たちが集まることで、自社で生かせる人脈を築けるメリットもあります。
ワーケーションとは、テレワークを活用し、勤務日と休暇をはさみながら、観光地やリゾート地で働くことをいいます。
たとえば、地元の支援をしながら業務を行ったり、地方過疎地の振興プロジェクトを支援したりと、内容はさまざまです。
普段とは違う場所で働くことで、新たな発想が生まれ、イノベーションにつながる可能性も高まります。
また、企業としてもワーケーションを導入することで、社員の有休取得を推進し、ストレス解消をはかれるメリットもあります。
国をまたいだ留学・海外研修も、越境学習としてはメジャーな手法です。
留学という形式もありますが、次世代リーダー育成の目的で「海外視察」「海外研修」のような呼び方をするケースもあります。
海外研修は、外部の教育機関が主催している研修に、社員を参加させる手段も一般的です。
いずれにしても、言葉やビジネス習慣が異なる文化圏に身を置くことで、社員の視野が広がる効果が期待できるでしょう。
企業が主導で社員に越境学習を実施する際、効果を高めるために知っておきたいポイントを紹介します。
越境学習は企業から強制してしまうと、社員のモチベーションが低下するリスクがあるため、注意が必要です。
越境学習ではハードな経験も予想されるため「なぜ自分なのか」「なぜあえて厳しい経験をするのか」と不満を覚えることもあるからです。
そのため、できる限り社員には自発的に参加させることが大切になります。
社員自身が自分の仕事やキャリアに課題意識を持ち、越境学習に対して魅力を感じていればいるほど、学ぶ意欲も高まります。
会社の制度や施策として越境学習を実施するなら、場合によっては社員の手上げ制を採択するのもおすすめです。
越境学習は、参加しただけで終わってしまうと、貴重な学びが業務に生かされない懸念があります。
そのため、越境学習が終了した社員には、別途振り返りや内省の場を設けさせることが重要です。
たとえば、上司や人事とのリフレクション面談を実施する、職場メンバー向けの勉強会を開催する、などの方法が考えられます。
「越境学習から何を学んだのか。今度、仕事にどう生かしていけそうか」を言語化させることで、その後のアクション促進が期待できるでしょう。
越境学習は、若手層から中高年層まで幅広い人材に対して、”働く意味や価値”を再認識させる効果が期待できる育成施策です。
この先のビジネスにおいては、ストレスやプレッシャーが増し、メンタルヘルスの課題が増える状況も予想されます。
越境学習をすることで、社員にレジリエンス(精神的回復力)が備われば、変化の波に果敢な挑戦ができる企業体質にも近づくのではないでしょうか。
ボルテックスの提供する在籍型出向サービスでは、人材業界出身の経験豊富なキャリアアドバイザーが定期的な面談を実施し、出向者が精神的にも安定して就労できるようなサポートを実施しています。
また、全国約4万社のネットワークから貴社のご要望に沿った最適な出向先をご提案します。
今後、越境学習の機会を提供していきたいとお考えの方は、是非ボルテックスにご相談ください。